人材系メディアを創業から約2年半で上場企業(未来ワークス)へ3.5億円で売却。
しかも社員ゼロ・オフィスなし。常識外れのスモールビジネスでイグジットを果たしたのが、京大卒の起業家・勝気健太さんだ。

本取材では、最初の1年は“収益ゼロでドメインパワーを育てる”という大胆なKPI設計、権威性の積み上げによるリンク戦略、仲介を複線化する売却交渉、そしてDD/PMIのリアルまで、再現性のある実務を中心に掘り下げました。
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酒井まん
31歳 | 上場企業グループに1億ほど売却含めて4回事業売却 | 今は梅干しサワー専門店とレンタル時計サービスとWEBマーケ支援事業|今年はYoutubeチャンネルを頑張ってます。


酒井まん
31歳 | 上場企業グループに1億ほど売却含めて4回事業売却 | 今は梅干しサワー専門店とレンタル時計サービスとWEBマーケ支援事業|今年はYoutubeチャンネルを頑張ってます。


勝気健太さん
メガバンク→コンサル→監査法人を経て独立。2019年に人材系メディアを創業し、2021年12月に未来ワークスへ3.5億円で売却。現在は2社目の経営と、書籍の企画・執筆に注力。


勝気健太さん
メガバンク→コンサル→監査法人を経て独立。2019年に人材系メディアを創業し、2021年12月に未来ワークスへ3.5億円で売却。現在は2社目の経営と、書籍の企画・執筆に注力。
初年度は「売上を見ない」——KPIは“ドメインパワー”だけ





初年度は本当に収益を見なかったのでしょうか。



ほぼゼロに振り切りました。意図的に。
当時はドメインの権威性が検索順位の土台でした。そこで取材→良質記事→自然な被リンクのループづくりに12ヶ月フルコミットです。



PVや広告収益は追わなかった、と。



PVの量ではなく“1PVの価値”に集中しました。
“転職 エージェント おすすめ”のようなマネタイズ意図が明確なクエリに対して順位を上げ、収益ページは後ろ倒しにしました。



不安はありませんでしたか。



だからこそ指標を1つに絞るんです。
「被リンクは何本・どこから」を見るだけ。迷いが消えると持久力が出ます。
権威性の作り方——“最初の一発リンク”を取りにいく





創業初期の“信用の壁”はどう越えられましたか。



権威性のある機関に最初に出ることです。私の場合は大学の公式サイトに取材記事を載せていただけたのが転機でした。
「その機関が載せている=一定の信頼がある」と解釈され、次の取材承諾と被リンクが連鎖的に起きます。



制作体制はどのように組まれましたか。



文章は自分、写真はプロ。
取材先が“コーポレートに載せたくなる”写真は被リンクの起点になります。個人メディアほど細部のクオリティが通行手形です。



小さい企業だからこそ、写真や記事のクオリティにはこだわったということですね。
「3位に乗ると跳ねる」——収益化の山を越える



売上が立ち上がる局面をどう見ていましたか。



1ページ目入りが前提で、特に3位前後に乗った瞬間にCVRが一段跳ねます。ですから序盤は順位だけを見ます。
焦って広告導線を差し込むより、土台→順位→収益の順で積んだほうが、結果として大きく伸びました。
独立の背景と資金づくり——“小さく始める”ための設計





独立前は、どのような準備をされていたのでしょうか。



銀行→コンサル→監査法人を経て独立しました。独立直前の1年間はフリーのコンサルで働き、約2,000万円を貯めて、自宅にこもって構想を練る時間を確保しました。
最初からうまくいったわけではありません。英語やプログラミングの比較サイトは失敗しています。そこで「労働集約を避け、SEOで集客し、少人数で回るモデル」を改めて定義し、人材領域に絞って再挑戦しました。
また、社員ゼロ・オフィスなしで始めたのは、固定費を限界まで軽くして、リスク許容度を徐々に上げるためでもあります。まず自分で分解→設計→実装して血肉化し、写真など専門性は外部に委ねる。この線引きが学習速度と再現性を高めました。
なぜ売却か——アルゴリズムの“現実”を直視





売却の意思決定に至った理由を教えてください。



Googleの地殻変動です。どれだけドメインを育てても、上場企業のサブディレクトリが有利になる局面は存在します。事実、ある時期に月次利益が約2,000万円まで伸びた後、約500万円まで落ち込むフェーズを経験しました。
「単独では再浮上が難しい」と率直に認め、上場企業の傘下で“再現して伸ばす”ほうが合理的だと判断しました。M&Aは「逃げ」ではなく、環境を味方に付ける意思決定だと思っています。
交渉の現場——仲介“複線化”と「本音の開示」





最初の打診から成約までの進め方を伺えますか。



はじめは日本M&Aセンター経由のご連絡でした。以後、M&Aクラウド・M&Aバンクなど仲介を複線化し、約20社と面談、3〜4社で具体的な提示に進みました。



複線化の狙いは価格だけではない、と。



はい。信頼の設計です。
各社条件は仲介経由で“本音ベース”に共有。
さらに「リスクファクターを30個」こちらから先出ししました。投資会議の言語で話すと、監査役・社外取締役が安心します。



“伸びしろ”だけでなく、“致命点”まで提示するのですね。



悲観シナリオでも回収できる価格か、で握るためです。
最終的なお相手はみらいワークスさん。波長と財務体力が合致しました。
DD/契約——ソロの強みは「軽さ」





デューデリジェンスや契約交渉はいかがでしたか。



人員ゼロ・オフィスなし・取引先少数でしたので、DDの焦点は事業の将来性に絞られました。契約で大きかった論点は競業避止の範囲(例:人材領域に限定する 等)です。
弁護士費用は10万円未満でした。理由は、自分で雛形に当たりを付け、論点を整理したうえで“要点のみ”専門家に検証いただく進め方にしたからです。丸投げより速く、安く、齟齬が少ない。これは小規模M&Aの王道だと感じます。
PMI——買い手ドメイン配下で「再現」する





売却後のPMIで重視されたことを教えてください。



買い手の強み(ドメイン力・体制)を最大活用し、サブディレクトリ配下に類似メディアを新規構築してのれん償却を上回る利益を早期に作ることです。
最初の6ヶ月はヒリヒリしましたが、1年で爆発的に伸長しました。社内推進では、買い手の社長が「Web関連は勝気に相談を」と明示してくださり、決裁の導線が一本化されたことも大きい。M&Aは契約で終わらず、“社内での立ち位置づくり”までが仕事です。
組織を持たない理由——まず“自分で血肉化”



社員を採用せず進めた理由は何でしょう。



分解→設計→実装をまず自分で血肉化するためです。
外注しても目利きが効きますし、少人数のほうが学習速度が速い。
一方で写真のような専門性はプロに任せ、任せる/自分でやるの線引きを明確にしました。
お金の話——“守りのインカム”で土台を固める





売却後の資産設計についても教えてください。



守りのインカム中心です。
米国の高格付け社債ETF(例:VCLT)や個別社債、場合によってJ-REIT。
年5〜6%の分配で生活の土台を固める。土台があると「何を作るか」に集中できます。キャピタルは副産物として狙い、安全域内で運ぶのが好みです。
これから——書くこと、もう一度つくること





現在は執筆の比重が高いと伺いました。



はい。SNS時代の承認欲求を軸に新書などを書いています。
同時に、別分野でも“最初の一発リンク”からの再現に挑みたいですね。小さくつくって大きく報われる設計は、まだまだ応用できます。
まとめ(編集後記)



今回の取材で特に重要だと思った箇所をまとめておきます。
- KPIを1つに固定すると迷いが消え、実装速度が上がる。
- 写真はプロ/文章は自分で“載せたくなる記事”を作る。
- 戦略はクール、スタンスは誠実。弱点を先に出す交渉が結局強い。
- ソロの強み=DDの軽さ:人・オフィス・取引関係を極小化することで、売却時の摩擦を最小に。
- 仲介3社以上に接触し、買い手候補をプール。提示条件は仲介経由で相互開示。
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